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サンタゴスティーノ通りVia Sant'Agostinoにある、彫金職人ウーゴ・ベッリーニの工房。まさに畳2畳(1畳かも?!)分の広さに彫金専用の作業台、その上にはごちゃごちゃと、いろんなものがのっている。…作りかけの作品はもちろん、様々な道具、やすり、バーナー、その他訳のわからない小さな物たち。 その前に座ってウーゴは、完成間近の指輪の仕上げ作業に入っていた。
“この仕事を始めた理由は?”
もともとは建築を勉強していたんだ。形とか、いろいろなマテリアルに興味があった。そのうち同じ理由で、ジュエリーにも興味を持ち出して次第にそちらの方がおもしろくなってきた。結局大学をやめ、ある彫金師の工房へ弟子入りしたんだ。最初は大変だったよ。覚えなきゃいけないことが山ほどあって、ちょっとしたことですぐ間違えるし。でも、彫金の仕事は好きだった。だから続けたんだ。3年後、自分で工房を開くことができたんだよ。
“彫金のどんなところが好き?どんなものを作るのが好き?”
可能性の豊かさだね。技術とか細工の。思いついたらどんなものでも、実現できる。あらゆる技術がある。シンプルなもの、複雑なもの…。例えば、透かし彫り。まず金の板を曲げて、透かしを入れる場所に印をつける。そのあと、糸鋸で透かしを入れていく。根気のいる作業だし集中力も必要だけど、自分が思い描いた通りの形の指輪を目の前にする、その満足感は最高だね。
工房と同様、小さな宝石箱のようなウインドーには、1点ものの指輪やイヤリングと並んで、最新作フィレンツェの風景を、七宝で描いたペンダントヘッドがひときわ目を引く。
“このペンダントヘッドは、君のアイディア?”
そうだね。偶然というか、僕の友人で写真家のフランチェスコ・デ・マージが、フィレンツェの町の風景の写真を見せたんだ。それがまるで、美しい絵のようでふと、考えた。ーこの絵をペンダントヘッドに描いたら…そうだ、七宝だ!
七宝は、フィレンツェでも古くから使われている技術なんだ。まず金のメダルの上に色の粉を下絵に沿って置いていく。それを800度で熱するんだ。こうして、本当の絵のような鮮やかな色が、出るんだよ。
“このペンダントヘッドの特徴は?”
1点もの、ということにつきるね。絵画と同じで、ひとつひとつ描いていくんだから同じものを二つ作ろうと思っても、できないんだ。
ウインドウには、彼の作品とともに彼が主催者の一人となっている、文化協会“レ・ボッテーゲ・ディ・サント・スピリト”のシンボルが。
“この協会を始めたのは?”
このサントスピリト地区には、まだ“おらが町”の意識が残っている。フィレンツェの他の地区では、もうなくなりつつあるけどね。サント・スピリト広場を生きた広場にしようという、この文化協会の趣旨が気に入ったんだ。ここで生活する人たちみんなを巻き込んで、お祭りやイベントをする。住民、商店、職人、大人から子供まで、誰もが参加できる。そんな催しが、今年も目白押しだよ。
彫金に話を戻して。
“これから彫金職人を目指す、若い人たちに一言”
質の良い彫金の学校を選ぶこと、基礎の技術をキチンと学ぶこと、それから根気だね。焦らず、急がず、コツコツと。失敗してもめげることはないんだ。僕だってずいぶんへまをしたよ!間違えるといい気持ちはしないよね。でも、それが役に立つんだ。間違えることでわかってくる。自分のやり方が見えてくるんだよ。
“フィレンツェの彫金業界。将来の展望をどうぞ”
僕の友人でやはり彫金師が、ずっと前に米国に渡ったんだ。12年後、フィレンツェに戻ってきたんだけどかなりショックを受けていたね。
なぜかって?ここも、ニューヨークもロサンジェルスも、もはや同じなんだよ!モードの世界で生産される製品はいわゆるグローバル化されて、フィレンツェにあるものは世界のどこでも、見つけることができる。でも他方では、まだまだたくさんの職人工房がここにはある。ここみたいにこんな小さい工房だってね。そこでは、何世紀も変わらない伝統的なジュエリーを、一つ一つ、時にはお客さんと一緒にデザインを考えながら、手作りで作っていくんだ。僕は、この二つの流れはそれぞれ続いていくと思うよ。全く違うタイプなんだし、十分共存していけるんじゃないかな。